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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)198号 判決 1985年3月15日

原告

渡辺健男

右訴訟代理人弁護士

前田裕司

栗山れい子

被告

三鷹市公平委員会

右代表者委員長

土屋鉄蔵

右訴訟代理人弁護士

石津廣司

被告

三鷹市教育委員会

右代表者委員長

三宅泰治

右訴訟代理人弁護士

松崎勝

右指定代理人

相田久仁男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告三鷹市公平委員会が行った別紙一記載の裁決はこれを取り消す。

2  被告三鷹市教育委員会が行った別紙二記載の処分はこれを取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者及び処分

(一) 原告は、昭和五二年四月一日付けで被告三鷹市教育委員会(以下「被告教育委員会」という。)に採用された職員である。

(二) 被告三鷹市公平委員会(以下「被告公平委員会」という。)は、昭和五七年一〇月一二日、別紙一記載の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決書は同年一〇月一四日原告に送達された。

(三) 被告教育委員会は、昭和五五年四月二二日、別紙二記載の処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  本件裁決には、以下のように法令の違背が存し、取消しを免れない。

(一) 審理不尽の違法

(1) 地方公務員の懲戒免職処分の取消しを求める審査請求事案は、免職という地方公務員法上の懲戒処分の中では最も重い処分に関するものであるから、公平委員会としては、処分の理由となった事実の存否と処分の量定をその処分量定に至る経過を含めて請求者に十分に納得がいくまで明らかにさせることが何よりも必要であり、また請求者に対してはその主張に謙虚に耳を傾け、立証についてもできる限りその意向に沿った配慮をなすことが必要である。

一般に、公務員の懲戒処分は、被処分者のあずかり知らぬところで一方的に行われる。その過程での被処分者本人からの事情聴取も行われず、いわんや論争主義に基づく証拠調べが行われることは全くない。そもそも、公平委員会は、単に事後的に処分の違法・適法、当・不当を判断するという態度ではなく、より積極的に処分者の立場としてその処分が妥当であったか否かを判断すべきである。処分について修正の権限が与えられているのはそのためである(地方公務員法五〇条三項)。

したがって、公平委員会は、当事者に十分主張・立証を尽くさせるべきであり、審理を十分にするべきなのである。

(2) しかるに、被告公平委員会は、本件裁決をするにあたって、右に述べた公平委員会制度の本旨を全く理解せず、十分な審理を尽くさなかった。

(イ) 本件処分は昭和五五年四月二二日に発令され、原告は同年五月一七日に審査請求書を被告公平委員会に提出した。ところが、被告公平委員会は、審査請求書自体には形式的な不備が全くなかったにもかかわらず、なかなか請求を正式に受理せず、原告の再三にわたる受理を求める申入れにも何ら対応を示さなかった。そこで、原告が、受理をしないことが不作為の違法に当たるとして、不作為違法確認訴訟の提起を決意し、訴状を作成したうえ被告公平委員会にその旨伝えたところ、同委員会はようやく原告の審査請求を受理するに至った。したがって、被告公平委員会が答弁書の提出を処分者に求めたのは、同年七月七日であった。

地方公務員法五〇条一項は、不服申立てを受理したときは、公平委員会は直ちにその事案を審査しなければならない旨定めているが、右規定に照らせば、その前提たる受理自体も、審査請求書に形式的不備がない限りすみやかにこれを行うべきである。

(ロ) さらに、処分者より提出された答弁書は、「不服の理由に対する答弁」として、同年五月一七日付け審査請求書に対する認否を記載するもので、処分理由に関する具体的説明を一切行っていなかった。処分者が、自ら行った処分について、処分事由となった事実の存在及び法令の適用などその処分理由についての全面的主張を明らかにするのが答弁書であるはずである。

したがって、被告公平委員会としては、答弁書の名に値しない「答弁書」の提出に対しては、漫然とこれを受理し原告に反論書の提出を求めるのではなく、「答弁書」を受け付けず直ちに処分の理由を明らかにした答弁書の提出を処分者に対し要求するべきであった。しかしながら、このような措置は一切とられなかった。

(ハ) また、原告は、同年一一月一一日、被告公平委員会に対し申入書を提出し、早急に口頭審理に入るべく、そのための審理方針確立のための協議を申し入れたにもかかわらず、これまた、被告公平委員会は何らの対応を示さなかった。

(ニ) 昭和五六年一月二四日の第一回準備手続、同年三月三日の第二回準備手続を経て、同年四月二一日からようやく口頭審理が始まった。しかしながら、被告公平委員会は、その審理方針を確立せず、また公平審査制度についての正しい理解をしようとしなかったがために、証人の採用、期日の設定について全く場当り的な対応しかしなかったばかりか、冒頭における原告の意見陳述の制度、介入、処分者側証人に対する反対尋問の制限を行い、原告の処分者側への文書提出要求、証人申請にも適切な指揮をとらなかった。

(ホ) また、最終準備書面の提出期限については、結審後一〇日以内などという非常識な指定を行ったりした。

(3) 以上のように、被告公平委員会は、地方公務員法五〇条一項に定める迅速な審理をしなかったばかりか、公平委員会制度の本旨である主張・立証を十分に尽くさせることをしなかったものであって、違法である。

(二) 裁決書の理由不備の違法

(1) 被告公平委員会が作成した「不利益処分についての不服申立てに関する規則(昭和四三年三月一日公平委規則第一号)」一二条には、裁決書には理由を付さなければならない旨明記されている。

ところで、被告公平委員会の裁決書には、第一事実、第二当委員会の判断として一応理由が記載されているにはいるが、裁決の理由とは、公平委員会が当該処分について判断した根拠を審査請求人に理解できる程度に論理的に展開するものでなければならないはずであり、かかる観点からすれば、本件裁決書には以下の点で理由不備の違法がある。

(2) 裁決書の理由中、請求人の主張に対する判断の項目があるが、地方公務員法二九条一項一号、同法三三条に該当しないとの原告の主張については何ら判断が示されていない。原告は、右条項と同法二九条一項三号とを特に区別して論じているものではないが、それぞれの条項にいずれも該当しないと主張しているのであるから、原告の主張と同一であるならそれとして、また別であれば別個に、明確に被告公平委員会の判断を下すべきである。

(3) 裁決書の理由第2、2、(3)の中に、「法律に違反する行為をなすことは、即『全体の奉仕者たるにふさわしくない非行』を行なったということになるのである。従って、請求人が、成田三里塚空港開港阻止闘争に参加し公務執行妨害、傷害罪等に該当する行為で逮捕、起訴され裁判に付されたことは……地方公務員として社会的評価を低下毀損する行為であって……」との論旨が展開されている。ここでは、法律に違反する行為をすることと公務執行妨害罪等で逮捕、起訴され裁判に付されたこととが同じ意味で取り扱われている。つまり、起訴されたことが法律に違反する行為になるのであり、「非行」なのだというのが被告公平委員会の見解である。

被告公平委員会は、もっともらしく「請求人の行為」として原告の行為についての事実認定を行っているが、これは処分者の主張する事実そのものであり、起訴状記載の事実に過ぎないのである。かような考え方からすれば、公平委員会の審理自体不要だということになってしまう。

被告公平委員会は、裁決書第2、2、(1)中で、「このことを本件に即していえば、昭和五三年四月一九日付休職処分は、請求人の非違行為に対する制裁として科されたものではなく、あくまで刑事事件として起訴されたことに対して科されたものであるのに対し、本件処分は請求人の非違行為自体に対する制裁として科されたものであって、決して同一の理由にもとづくものではない」と述べているが、一方で、本件処分も「起訴されたことに対して科されたもの」であることを前述の文脈の中で認めているのであって、明らかに矛盾しているものと言い得る。

(4) 裁決書第2、2、(4)に、「請求人は、本件処分に当り処分者が請求人よりの事情聴取を行わなかったとして本件処分が適正手続に違反するという。しかし、本件非違事実については、処分者としても事の真相を知る責任上、再三に亘り職員を派遣して直接請求人に面接して事実についての質問を試み、且つ弁明の機会を与えた経緯については前記事実認定欄で詳細に述べたとおりであるから請求人の主張は、真実に反する主張であり、本件処分手続には何等違反なきものと言わなければならない。」との記載がある。これは、原告の主張を誤解したか、曲解したかのいずれかの前提に立つものであって、原告の主張に対する判断と評価し得るものではない。

原告は、本件処分を行うに当たって告知、聴聞、弁解の機会を与えなかったことが手続上の違背である旨主張しているのであって、原告の所属していた被告教育委員会の上司が、事の真相を知るため行為者本人から事情を聞くことは処分を行うに当たっての弁明等の手続とは何ら関係がなく、峻別されるべきものなのである。

被告公平委員会は、この点を混同したか意識的に同一のものと独断したうえ、原告の主張に対する判断を行ったものであるから、理由とは言い得ないものである。

(5) 以上のように、被告公平委員会の裁決書には理由不備の違法がある。

3  本件処分は、以下の理由により違法であり、取消しを免れない。

(一) 処分対象事実の不存在

(1) 原告に対する本件処分の理由は、

「被処分者は、昭和五三年三月二六日、成田三里塚開港阻止闘争に参加し、ほか多数の者と共謀のうえ、同日午後一時三〇分過、千葉県成田市古込所在の新東京空港署前路上付近およびその周辺において、警備中の多数の警察官に対し、共同して危害を加える目的で、多数の火炎びん、鉄パイプ、石塊等の凶器を準備して集合し、前記日時場所において、前記警察官らに対し、鉄パイプで殴打し、多数の火炎びん、石塊を投げつけて前記警察官の職務の執行を妨害し、多数の警察官に傷害を負わせたものである」

というにある。

(2) しかし、昭和五三年三月二六日及びその前日の原告の行動は次に述べるとおりであり、右処分理由に該当する事実は存在しない。

(イ) 原告は、昭和五三年三月二五日、翌二六日に予定されていた三里塚現地での集会に参加するため、須加美明を含む三多摩の自治体労働者ら数名とともに朝倉団結小屋に入った。

(ロ) 朝倉団結小屋に到着した原告らは、翌日の集会、デモ行進に対する機動隊の弾圧に備え、地域ごとのグループ編成を受け、翌日の強行開港に反対しようとの趣旨の簡単な集会に参加した後、一緒に行った仲間と雑談などをして過ごした。

なお、翌日の行動予定について、原告は、午前中菱田小学校跡地での集会に参加し、その後デモ行進をしながら三里塚第一公園に向かい、午後から行われる同公園での集会に参加するものと考えていた。

(ハ) 三月二六日午前、原告らは、菱田小学校跡地での集会に参加した。右集会には、全国から労働者、学生、市民ら三〇〇〇から四〇〇〇人が集まり、主権者たる人民の意思を踏みにじった強行開港に反対する旨の発言が相次いだが、当日の行動については、具体的行動予定は示されなかった。

(ニ) 集会終了後、原告は三多摩の仲間とともにデモ行進に参加した。なお、デモ行進に出発する際、右小学校跡地に置かれていた鉄パイプを持つ者もいたが、原告及び三多摩からの仲間は鉄パイプを持たなかった。

(ホ) デモ隊は一時間近く行進した後、何かの跡地のようなところで休憩し、再び出発した。

原告は、それまで数回の現地集会に参加しただけであったため、三里塚の地理に不案内であったが、デモ隊に加わって行進を続けていたところ、管制塔に赤旗が翻るのを目にした。このときデモ隊は、一旦後退をしたが、再びデモ行進を始めた。

(ヘ) そして、機動隊の規制も受けずに一〇ゲートの交差点に達した段階で、機動隊から突然襲いかかられ、右往左往するうち、原告は逮捕されたのである。

なお、原告は、前述のとおり、三里塚の地理に不案内であり、逮捕後初めて空港敷地内にかなり入り込んでいたことを知った。

(3) 以上のとおり、原告は、「火炎びん、鉄パイプ、石塊等の凶器」を所持したことはなく、したがって、警察官に対してこれらを使用したという事実は全くない。かつ、「ほか多数の者と共謀」した事実もない。

よって、本件処分は、処分対象事実が存在しないにもかかわらずされた違法なものである。

(二) 「非行」「信用失墜行為」非該当

被告教育委員会は、処分理由該当の行為が地方公務員法二九条一項三号の「全体の奉仕者たる公務員にふさわしくない非行」及び同法三三条の「その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為」に該当するとして、本件処分を行ったものである。しかし、処分の理由となった事実が存在しないことは既に述べたとおりであるが、仮に処分理由にいう「共謀」を含んだ行為(ないしはそれに類似する行為)があったとしても、それらは、以下に述べるとおり、被告教育委員会のいう「非行」、「信用失墜行為」には該当しない。

(1) 公務員の行為が刑罰法規に触れる場合であっても、それが公務員職権濫用罪(刑法一九三条)、収賄罪(同法一九七条)等公務員の身分を前提にした犯罪であったり、破廉恥罪と称されるものである場合を除いて、直ちに職の信用を傷つけ、あるいは、職員の職全体の不名誉となるとは断じ得ないのであって、その職員の担当する具体的職務との関連性が慎重に検討されなければならない。

職務に関係のない非行などは、むしろ道徳的社会的な非難の対象にはなっても、当然の懲戒事由と考えるべきではなく、さらに、当該行為が職務に関係なく職務時間外にされた政治的行為である場合は、憲法一九条、二一条で保障された一個人、一市民としての思想、表現の自由として、これに対する懲戒処分は許されないと解すべきである。

(2) 新東京国際空港は、もともと何らの公共性もなく、建設目的からして不当であるうえ、地元住民である三里塚農民の意向を全く無視し、当然とるべき法的手続も経ず、政治的に三里塚の地に新空港を建設することを決定し、これを強行したものであって、国家権力の数々の重大な違法行為の積み重ねに対し三里塚農民が反対運動に立ち上がったことは、自らの生活と権利を擁護するためには当然のことであった。

原告の処分理由とされた行為は、三里塚空港建設に反対する過程で生じたものであり、地域住民の生活と人権保障のための「抵抗体」であり、すすんで「創造体」でなければならない地方自治体の憲法的地位を具現化する使命と義務を負う地方公務員が、民主主義と地方自治の根本的破壊に対し一〇年以上の長きにわたって闘い続けてきた三里塚農民に共感して行ったものであって、「公務員の信用失墜」、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」には到底該当しない行為である。

(3) よって、仮に原告に本件処分理由に該当する行為があったとしても、右行為は地方公務員法二九条一項三号、同法三三条には該当せず、同法同条項該当を理由とする本件処分は取り消されなければならない。

(三) 適正手続違反

(1) 地方公務員の懲戒についても、憲法三一条、地方公務員法二七条一項の規定に基づき適正な手続が必要であり、特に懲戒免職という最も重大な処分を科す場合には、その必要性は一層高いと言わなければならない。

(2) ところで、適正な手続が要請されるのは、何よりも被処分対象者の権利保護にあることを考えれば、どのような行為を処分の対象としているのか、どのような証拠資料に基づいて処分事実を認定しようとしているのか等々を処分権者がまず明らかにし、それに対する被処分対象者の弁明、防御の機会が十分に保障されなければならないのであり、そのためには、告知・聴聞の手続あるいは弁明の手続が必要なのである。

この告知・聴聞、弁明の手続は、処分権者が調査の一環として行う被処分対象者からの事情聴取とは異なり、右事情聴取も含め処分権者の調査が一応終了し、処分対象事実を特定した後に、被処分対象者の防御のために行われるべきものである。

(3) 本件処分は、昭和五五年四月二一日の原告を被告人とする刑事事件の第一審判決を前にした同月一八日に開かれた教育委員会で議題とされたうえ、判決当日の二一日に開催された臨時の教育委員会において決定されたものであるが、この際に、原告に対する告知・聴聞、弁明の手続は一切とられていない。

(4) よって、本件処分は、処分に当たり原告に対し告知・聴聞、弁明の機会を与えることなく行われたものであって、憲法三一条、地方公務員法二七条一項に違反し、取り消されるべきである。

(四) 処分権の濫用

本件処分は、国家が三里塚空港建設の過程でくり返して来た数々の違法、不当の最後の仕上げとして、昭和五三年三月二六日開港を強行しようとしこれを阻止されたことに対し、国家主導のもとに行われたものであり、公務員秩序の維持という観点からではなく、別の政治的意思に貫かれて、確定判決を待たず一審判決後直ちに行われた政治的処分であるから、処分権の濫用に該当し違法なものである。

4  以上のとおりであるから、請求の趣旨記載の裁判を求める。

二  請求原因に対する被告公平委員会の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)(1)の事実中、公平委員会が処分修正の権限を与えられていることは認め、その余は争う。

(二)  同2(一)(2)の事実中、左記の点を除き、その余はすべて争う。

(1) 同項(イ)の事実中、本件処分が昭和五五年四月二二日に発令されたこと、原告が同年五月一七日に審査請求書を被告公平委員会に提出したこと、審査請求書に形式的不備がなかったこと、原告が審査請求書の受理までの間に被告公平委員会に対しその受理を求める申入れを行い、また、受理しないことにつき不作為違法確認訴訟を提起する旨の申入れを被告公平委員会に対してしたこと、被告公平委員会が原告の審査請求を受理したうえ、同年七月七日に処分者に対し答弁書の提出を求めたことは、いずれも認める。

(2) 同項(ロ)の事実中、処分者から提出された答弁書には、審査請求書に対する認否のみが記載され、処分理由に関する具体的説明の記載がなかったことは認める。

(3) 同項(ハ)の事実中、原告が昭和五五年一一月一一日被告公平委員会に対し申入書を提出し、審理方針確立のための協議申入れをしたことは認める。

(4) 同項(二)の事実中、昭和五六年一月二四日の第一回準備手続、同年三月三日の第二回準備手続を経て、同年四月二一日に口頭審理が開始されたことは認める。

(三)  同2(一)(3)の主張は争う。

3(一)  同2(二)(1)の事実中、本件裁決書に理由不備の違法があるとの点は争い、その余は認める。

(二)  同2(二)(2)の事実は争う。

(三)  同2(二)(3)の事実中、本件裁決書の中に原告主張の記載があることは認め、その余は争う。

(四)  同2(二)(4)の事実中、本件裁決書の中に原告主張の記載があることは認め、その余は争う。

(五)  同2(二)(5)の主張は争う。

三  請求原因に対する被告教育委員会の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同3の事実中、(一)(1)の事実は認めるが、その余はすべて不知ないし争う。

四  被告公平委員会の主張

1  原告の審理不尽の違法の主張について

(一) 原告は、被告公平委員会が審査請求書を昭和五五年七月まで受理しなかったことが地方公務員法五〇条一項に違反し、ひいては本件裁決が違法となる旨主張している。

しかしながら、右条項は単なる訓示規定であり、同条違反を理由に裁決が違法となる余地はない。しかも、右条項は審理自体に関する規定であり、その前段階である審査請求書の受理期限に関するものでないから、審査請求書の受理が提出後直ちにされなかったからといって、右条項違反を問う余地はない。

(二) 原告は、被告公平委員会が処分理由に関する具体的説明のない答弁書を受け付けたことが違法であると主張している。

しかしながら、被告公平委員会には、答弁書の内容いかんによってその受理・不受理を決すべき権限も義務もなく、処分者から提出された答弁書を受理したことが違法となり、ひいては裁決が違法となる余地は全くない。しかも、本件の場合、被告公平委員会は、右答弁書受理後に処分者に対し再答弁書の提出を求めているのであって、その措置に何らの違法もない。

(三) 原告は、被告公平委員会が原告からの昭和五五年一一月一一日の「協議」申入れに応じなかったことが違法であると主張している。

しかしながら、地方公務員法はもちろん被告公平委員会の「不利益処分についての不服申立てに関する規則」にも、右「協議」なる手続は何ら定められていない。原告からの前記「協議」申入れは事実上のものに過ぎず、被告公平委員会がこれに応じなかったからといって違法となる余地はない。なお、被告公平委員会は、同月二七日右申入れに対し協議の要なしとの回答を行っている。

(四)(1) 原告は、被告公平委員会が証人の採用、期日の設定について全く場当り的な対応しかしなかったと主張する。

しかしながら、公平審理は職権進行主義がとられており、証人採用等は被告公平委員会の専権に委ねられているものである。しかも本件の場合、二回にわたる準備手続において証人申請を含めた証拠の整理を行い、一部については証人採用決定をして第一回口頭審理から証人尋問を開始し、以後順次証人の採用決定を行ってきたものであり、その措置に何らの違法もない。また、期日設定については、前記準備手続において協議し、以後両当事者の都合を考慮して設定してきたものであり、この点にも何らの違法もない。

(2) 原告は、被告公平委員会が冒頭における原告の意見陳述の時間制限、介入、処分者側証人に対する反対尋問の制限を行ったと主張する。

しかしながら、冒頭における請求者の意見陳述は、地方公務員法にも被告公平委員会の「不利益処分についての不服申立てに関する規則」にも規定されておらず、法令上かかる手続を行う必要はない。また、処分者側証人に対する請求者側の反対尋問についても、公平審理が職権審理主義をとる以上、右反対尋問をどの程度許すかは公平委員会の専権に委ねられているものである。

しかも本件においては、被告公平委員会は当事者と右冒頭陳述、反対尋問の時間数につき予め協議し、原告がその協議により定められた時間数を超過したが故に制限しようとしたものに過ぎない。また、被告公平委員会は、最終的には右予定時間経過後の冒頭陳述、反対尋問を許し、原告はその希望する冒頭陳述、反対尋問を全面的に行ったものである。

(3) 原告は、被告公平委員会が原告の処分者側への文書提出要求、証人申請にも適切な指揮をとらなかったと主張する。

しかしながら、前述のとおり公平審理は職権審理主義がとられており、いかなる証拠を取り調べるかは公平委員会の専権に委ねられているものである。原告の申し出た文書提出要求、証人申請を被告公平委員会が採用しなかったからといって違法となる余地はない。

(五) 原告は、被告公平委員会が最終準備書面の提出期限について結審後一〇日以内に指定したのが違法であると主張する。

しかしながら、被告公平委員会は、本件口頭審理において原告に対し最終陳述の機会を与えており、さらにその上最終準備書面提出の機会を与える必要はない。しかも本件の場合、被告公平委員会は、最終口頭審理期日たる昭和五七年七月八日、後日相談に応ずるとの留保付きで最終準備書面提出期限を一応同年七月末日と指定したに過ぎない。なお、被告公平委員会は、原告が右指定期日経過後である同年九月六日に最終準備書面を提出したのを受理し、その後本件裁決を行っているものであり、その措置には何らの違法もない。

2  原告の理由不備の違法の主張について

(一)(1) 原告は、本件裁決には地方公務員法三三条に該当しないとの原告主張に対する判断が示されていないと主張している。

しかしながら、原告は、本件口頭審理において、原告自身認めるとおり、地方公務員法二九条一項一号、三三条と同法二九条一項三号とを特に区別して論じていたものではなく、右両条項が職場外でされた職務遂行に関係のない行為には適用されるものではないとの主張を一括して行っていたものである。このため、被告公平委員会は、原告の右主張を本件裁決書の「事実及び争点」欄で「地公法第二九条第一項第三号の非該当性」との標題の下に地方公務員法三三条の信用失墜行為に関する原告主張をも一括して記載し、「理由」欄で同じく右標題の下に一括して判断を示したものである。

(2) 仮に、本件裁決に地方公務員法三三条違反該当性に関する判断が示されていないとしても、理由不備の違法と解すべきものではない。

裁決には、その理由として結論に到達した過程を明らかにしておれば足り、請求人の主張する不服の事由すべてについて応答する必要はない。本件裁決の結論は原告に対する懲戒処分を承認するものであり、その理由としては、原告の行為が地方公務員法二九条一項各号所定の懲戒事由の一つに該当するとの判断を示せば足りるのである。そうとすれば、本判裁決には原告も認めるとおり地方公務員法二九条一項三号該当の判断が示されており、その上にさらに同法三三条該当の判断を示す必要は全くないのである。

(二) 原告は、本件裁決理由欄第2、2、(3)では逮捕、起訴されたことが「非行」であるとの判断が示され、同欄第2、2、(1)の判断と矛盾する旨主張している。

しかしながら、原告指摘の本件裁決理由欄第2、2、(3)の記載は、原告が成田三里塚空港開港阻止闘争に参加し公務執行妨害罪、傷害罪等に該当する行為を行い、逮捕、起訴され裁判に付されたものであるから、当該行為が職場外でされた職務遂行に関係のないものとはいえ、地方公務員としての社会的評価を低下毀損する行為であるとの判断を示したものである。本件裁決の右記載において、逮捕、起訴は原告の行為(すなわち、公務執行妨害罪、傷害罪等に該当する行為)が地方公務員としての社会的評価を低下毀損するものであるとの理由として述べられたものであって、逮捕、起訴自体が懲戒事由であるとしたものではない。

(三) 原告は、本件裁決には、原告の適正手続違反の主張については判断が示されていないと主張している。

しかしながら、本件裁決においては、原告の適正手続違反の主張は「事実及び争点」欄第3、2、(4)に記載され、これに対応して「理由」第2、2、(4)で原告指摘の文言により被告公平委員会の判断が示されている。原告は右「理由」欄の記載は原告主張に対する判断と評価し得るものではないと主張するが、右記載から明らかなとおり、被告公平委員会は事実認定欄で説示した処分者の事情聴取をもって懲戒処分の事前手続として十分であるとの判断を示しているものであって、原告の右主張は理由がない。

五  被告教育委員会の主張

1  処分理由の存在について

(一) 原告は、昭和五三年三月二六日、成田三里塚開港阻止闘争に参加し、ほか多数の者と共謀のうえ、同日午後一時三〇分過ぎ、千葉県成田市古込所在の新東京空港署前路上付近及びその周辺において、警備中の多数の警察官に対し、共同して危害を加える目的で、多数の火炎びん・鉄パイプ・石塊等の凶器を準備して集合し、前記日時・場所において前記警察官らに対し、多数の火炎びん・石塊を投げつけて前記警察官の職務の執行を妨害し、多数の警察官に傷害を負わせたものである。

(二) このような行為は、全体の奉仕者たる公務員にふさわしくない行為であり、市職員として、その職の信用を著しく傷つけ、職員の職全体の不名誉となるものであって、原告の右行為が地方公務員法二九条一項一号、三号に該当することは明らかである。

2  処分手続の適法性について

(一) 懲戒処分においては、原告の主張するような告知、聴聞等の手続は全く不必要であり、原告の右主張は、主張自体に徴し失当である。

(二) 仮に、何らかの弁明の機会が本件処分において必要であるとするのであれば、被告教育委員会は、昭和五三年五月一二日、同年六月一四日及び同年七月一一日の三日にわたり原告に対し弁明の機会を与えており、原告の主張は失当である。

3  以上に述べたことから明らかなとおり、原告については、裁量論を含めて、本件処分の違法性が問題となる余地はない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実はいずれも原告と被告らとの間に争いがない。

二  本件裁決の違法の主張について

1  原告は、本件裁決には審理不尽の違法があるとし、その事由を列挙しているので、以下順次検討する。

(一)  原告は、審理不尽の事由として、まず審査請求の受理の遅延を主張する。

本件処分が昭和五五年四月二二日に発令され、原告が同年五月一七日に審査請求書を提出したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被告公平委員会が右審査請求を受理したのは同年七月に入ってからであったことが認められる。

しかしながら、審査請求の申立てから受理までに一か月余を要したからといって、このことから直ちに本件裁決に審理不尽の違法があるものと解することはできないから、原告の主張は採用できない。

(二)  原告は、被告公平委員会が処分者から提出された答弁書の名に値しない不当な答弁書を漫然と受理したことが違法である旨主張する。

しかしながら、被告公平委員会には、答弁書の内容によってはその受理を拒絶しなければならないというような法律上の義務はなく、その取扱いは被告公平委員会の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。しかも(証拠略)によれば、被告公平委員会は答弁書の提出を受けた後処分者に対しさらに再答弁書の提出を求め、処分理由等について詳細な主張をさせていることが認められるのであって、被告公平委員会の答弁書の取扱いに関し原告の主張するような違法を認めることはできないから、原告の主張は失当である。

(三)  原告は、被告公平委員会が原告の審理方針確立のための協議申入れに対し何らの対応を示さなかったことが違法である旨主張する。

しかしながら、(証拠略)によれば、被告公平委員会は地方公務員法五一条に基づき「不利益処分についての不服申立てに関する規則(昭和四三年三月一日公平委規則第一号)」を制定していることが認められるところ、右規則にも、また地方公務員法にも、不服申立事案の当事者から公平委員会に対し協議の申入れがされた場合には、同委員会は右申入れに応じなければならないとする規定は存在せず、これに応ずるかどうかは同委員会の判断により自由に決し得るところであるといわなければならないから、原告の主張は失当である。

(四)  原告は、被告公平委員会が口頭審理において証人の採用、期日の設定について場当り的な対応しかせず、冒頭における原告の意見陳述の制限、介入、処分者側証人に対する反対尋問の制限を行い、原告の処分者側への文書提出要求、証人申請にも適切な指揮をとらなかったことが違法である旨主張する。

しかしながら、前記不利益処分についての不服申立てに関する規則によれば被告公平委員会の公平審査には広く職権主義が採用されていることが明らかであり、口頭審理期日をいつに設定するか、審理の冒頭における審査請求人の意見陳述の申しいでを許容するかどうか、また、右意見陳述を行わせるとしてどの程度の時間をこれに充てるか、いかなる証拠をどの段階で採用し取り調べるか、証人尋問における反対尋問をどの程度まで行わせるか等の審査手続の指揮については、被告公平委員会の自律的な運用に委ねられているものというべきである。

そして、いずれも成立に争いのない(証拠略)によれば、被告公平委員会は、公開口頭審理に先立ち二回の準備手続を行い、当事者双方の主張整理を行うとともに、証拠の申しいでをさせ、以後八回にわたり公開口頭審理を実施したが、期日の設定については当事者双方の都合にも配慮したこと、審理冒頭の原告による意見陳述の申しいでについては、被告公平委員会は、審理終結前の最終陳述の機会に原告に対し意見開陳のための充分な時間を与えるべく、したがって冒頭の意見陳述は一〇分間に限り許可する旨告げたうえこれを行わせることとしたが、原告は、被告公平委員会の右指示にかかわらず、指定された時間を大幅に超えて第一回期日の相当部分を費やし、十二分に意見陳述を行ったこと、当事者から申しいでのあった証拠については、当事者の意見をも徴したうえ被告公平委員会において証拠調べの必要を認めたものについて採用の決定をし、順次各審理期日において証拠調べを実施し、証拠調べの必要がないものと判断した証拠についてはこれを取り調べない旨の決定をしたこと、処分者側の証人は一名のみが申請され、これについて第一回期日から証人尋問が行われたが、処分者側による主尋問は右期日のうちに終了したのに対し、原告側は、右期日の残余の時間と第二回及び第三回期日のすべてを費やして十二分に右証人に対する反対尋問を行ったことがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告の審査請求の審理における違法として原告の指摘する事項に関する被告公平委員会の措置が原告の公平審査における正当な利益を侵害した事実は全く認められず、いずれも被告公平委員会に委ねられた審査指揮権の行使として適法に行われたものというべきであり、被告公平委員会の右措置に原告主張のような違法があるものとは認められないから、この点に関する原告の主張は失当である。

(五)  原告は、被告公平委員会が、原告からの最終準備書面の提出期限を結審後一〇日以内と指定したことが違法である旨主張する。

しかしながら、被告公平委員会が右答弁書の提出期限を結審後一〇日以内と指定したとの主張事実については、本件全証拠によってもこれを認めることができず、かえって(証拠略)によれば、本件公開口頭審理の最終期日は昭和五七年七月八日に開かれたところ、被告公平委員会は、原告からの最終準備書面の提出期限を、その期限の延長については後日相談に応ずるとしたうえで、一応同月末日と指定したこと、原告は最終準備書面を右期限経過後の同年九月六日提出したが、被告公平委員会は右提出を許容しこれを受け付けていることがそれぞれ認められるのであり、原告の最終準備書面提出期限に関する主張は失当といわなければならない。

2  次に、原告は、本件裁決には理由不備の違法がある旨主張しているので、以下順次検討する。

(一)  原告は、本件裁決の理由中には原告の行為が地方公務員法二九条一項一号、同法三三条に該当しないとの原告の主張に対する判断が示されていないと主張する。

一般に、審査請求に対する裁決に付すべき理由は、不服申立人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにするものでなければならないが、右結論に至る過程の中で審査請求人の主張する不服の事由のすべてについて常に応答しなければならないものではなく、審査請求を棄却する裁決にあっては、原処分を正当として維持するのに必要かつ充分な理由が示されていれば足りるものというべきである。

これを本件について見るに、(証拠略)によれば、本件処分は原告の行為が地方公務員法二九条一項一号、同法三三条及び同法二九条一項三号に該当するものとして行われたこと、これに対し、原告は審査請求において原告の行為は地方公務員法の右各規定に該当しない旨の主張を行ったこと、そして、被告公平委員会は、本件裁決において処分理由の存否に関する判断として、原告の行為を具体的に認定したうえ、右行為は同法二九条一項三号に該当し、したがって原告には懲戒の事由が存在する旨説示していることがそれぞれ認められ、右事実によれば、本件裁決には処分理由の存否に関し原処分を正当として維持するのに必要かつ充分な理由が示されているものということができるから、本件裁決に同法二九条一項一号、同法三三条該当性についての判断が示されていないからといって、本件裁決が違法となるものということはできず、原告の主張は失当というべきである。

(二)  原告は、本件裁決は、「非行」に関する説示に関し理由の第2、2、(3)において起訴されたこと自体が「非行」に当たる旨の判断を示しているが、これは理由の第2、2、(1)の判断と矛盾する旨主張する。

本件裁決の理由第2、2、(3)及び第2、2、(1)の中にそれぞれ原告主張の説示があることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、(証拠略)によれば、本件裁決の理由第2、2、(3)には、右原告主張の「請求人が成田三里塚空港開港阻止闘争に参加し公務執行妨害罪、傷害罪等に該当する行為で逮捕、起訴され裁判に付されたことは」との説示に引き続き、「それが職場外でなされた職務遂行に関係ないものとはいえ、その動機、目的を考慮するまでもなく地方公務員として社会的評価を低下毀損する行為であって」との判断の示されていることが認められ、右事実によれば、本件裁決の理由第2、2、(3)の説示も、全体として見れば、原告が成田三里塚空港開港阻止闘争に参加し、公務執行妨害罪、傷害罪等に該当する行為をしたことをもって懲戒の事由としているものと解することができるから、原告の主張は失当といわざるを得ない。

(三)  原告は、本件裁決中の適正手続違反の原告主張に対する被告公平委員会の判断は理由とは言い得ない旨主張する。

しかしながら、(証拠略)によれば、本件裁決は、「事実及び争点」の項において原告の右主張を記載し、「理由」の項でこれに対する判断を示していることが認められ、本件裁決に右主張についての理由が付されていることは明らかであるから、原告の主張は失当というべきである。

3  以上によれば、本件裁決には原告主張のような瑕疵はなく、適法というべきであるから、本件裁決の違法を主張する原告の請求は理由がない。

三  本件処分の違法の主張について

1  原告は、本件処分は、処分対象事実が存在しないにもかかわらず行われた違法なものであると主張する。

(一)  本件処分の理由が原告主張(請求原因3(一)(1))のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、懲戒事由の存否につき検討するに、(証拠略)を総合すると、原告は、昭和五三年三月二六日、成田三里塚開港阻止闘争に参加し、ほか多数の者と共謀のうえ、同日午後一時三〇分過ぎ、千葉県成田市古込所在の新東京空港署前路上付近及びその周辺において、警備中の多数の警察官に対し、共同して危害を加える目的で、多数の火炎びん・鉄パイプ・石塊等の凶器を準備して集合し、前記日時・場所において前記警察官らに対し、多数の火炎びん・石塊を投げつけて前記警察官の職務の執行を妨害し、多数の警察官に傷害を負わせ、現行犯逮捕されたことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

さらに、(証拠略)によれば、原告は、同年四月一六日、凶器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害及び傷害の罪で千葉地方裁判所に起訴され、右事件は同裁判所から東京地方裁判所に移送され、同裁判所は、昭和五五年四月二一日、原告の前記行為と同様の事実を認定したうえ、原告に対し懲役二年の実刑判決を言い渡したこと、右事件の控訴審たる東京高等裁判所も、昭和五六年五月二七日、原告の行為について第一審裁判所の認定を承認し、ただ量刑が重きに失するとして原判決を破棄し、改めて原告に対し懲役二年、執行猶予五年の有罪判決を言い渡したこと、そして最高裁判所は、昭和五七年二月五日原告の上告を棄却し、ここに右事件は確定したことが認められ、右事実も、原告が前記成田三里塚開港阻止闘争に参加し、前記行為に及んだことを裏付けるものである。

(三)  してみると、本件処分の違法事由として処分対象事実の不存在をいう原告の主張は理由がなく、採用できないものというべきである。

2  原告は、職務に関係なく職務時間外にされた政治的行為については、懲戒処分をすることは許されず、また、原告の行為は、違法、不当な新東京国際空港の建設に反対する過程で生じたものであるから、「公務員の信用失墜」にも「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」にも該当しない旨主張する。

しかしながら、地方公務員法は、地方公務員の服務の根本基準として、「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」(同法三〇条)と定めており、このような地方公務員の職務の特質及びその勤務関係の特殊性に照らせば、職務遂行に関係のない行為であっても、地方公務員の社会的評価を低下毀損する虞があると客観的に認められるような場合には、所属公務員の勤務についての秩序維持確保のために、これを懲戒の対象とすることが許される場合もあり得るものといわなければならない。

原告は、前認定のとおり、昭和五三年三月二六日の成田三里塚開港阻止闘争に参加し、凶器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害及び傷害の各罪に該当する行為を敢行し、逮捕され、右各行為について有罪の確定判決を受けたものであって、その動機、目的がどのようなものであったにせよ、右のような暴力的行為を敢行することが、地方公務員としてはもとより一般市民としても到底許容されるものでないことはいうまでもないところであり、たとえ原告の右行為が職務遂行とは関係なく行われたものであるとしても、地方公務員の社会的評価を低下毀損せしめたことは明白であるから、原告の右行為は、地方公務員法二九条一項三号の懲戒事由に該当することはもとより、同法三三条に違反し、したがって同法二九条一項一号の懲戒事由にも該当するものというべきである。

3  原告は、本件処分は、告知・聴聞、弁明の手続を欠くから違法である旨主張する。

しかしながら、原告の主張するような、被処分者からの事情聴取とは別個の独立の手続として告知・聴聞、弁明の手続が必要である旨の見解は当裁判所の採用しないところであり、また、(証拠略)によれば、被告教育委員会の職員は、昭和五三年五月一二日、同年六月一四日及び同年七月一一日の三回にわたり千葉刑務所内に勾留中の原告と面会し、弁明の機会を与えていることが認められるから、本件処分に原告主張のような適正手続違反の違法があるものということはできない。

4  原告は、本件処分は、公務員秩序の維持という観点からではなく、別の政治的意図から行われたもので、処分権の濫用に当たり違法である旨主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても、本件処分が公務員秩序の維持という観点とは別の政治的意図から行われたことを窺わせるような事情を認めることはできない。原告のした本件処分理由にかかる行為は前記のとおりであり、原告の右行為は地方公務員として看過し得ないものであって、本件処分が免職という地方公務員としての地位を失わせる重大な結果をもたらすものであることを考慮しても、被告教育委員会が懲戒処分として免職処分を選択したことが社会観念上著しく妥当性を欠くものとはいえないし、懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を超えこれを濫用したものということもできない。

原告の処分権濫用の主張も採用できない。

5  以上によれば、本件処分には原告主張のような瑕疵はなく、適法というべきであるから、本件処分の違法を主張する原告の請求は理由がない。

四  よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大谷禎男)

別紙一

1 審査請求人 渡辺健男

2 審査請求提起日

昭和五五年五月一七日

3 審査請求の対象

別紙二記載の免職処分

4 裁決日 昭和五七年一〇月一二日

5 裁決主文 処分者三鷹市教育委員会が、昭和五五年四月二二日付で行なった審査請求人渡辺健男に対する懲戒免職処分を承認する。

別紙二

1 被処分者 渡辺健男

(三鷹市教育委員会体育課所属)

2 処分の日 昭和五五年四月二二日

3 処分の内容 懲戒免職

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